脳内の働き(4)『うつ病ではどこの具合が悪くなるのか?-三環系、SSRI-』

2012
1/28
土曜日

以下の著書から脳の働き(4)として、『抗うつ薬はどのように作用するのか』の最終話題。
三環系、、SSRI、+αの仕組みについて、本書に書かれた内容を要約する。

シリーズ話題ですので、順追って一読頂くことをお勧めします。

脳内の働き(1)
脳内の働き(2)
脳内の働き(3)

〈増補改訂 第2版〉いやな気分よ、さようなら―自分で学ぶ「抑うつ」克服法
デビッド・D.バーンズ 山岡 功一 夏苅 郁子
David D. Burns 佐藤 美奈子 林 建郎 小池 梨花

4791102061

内容(「BOOK」データベースより)
認知療法の気分改善効果は、驚くべきものである。うつ病に対して、抗うつ薬と同等か、それ以上の治療効果があると証明された初めての精神療法、それが認知療法である。本書は、人生を明るく生き、憂うつな気分をなくすための認知療法と呼ばれる最新の科学的方法を示す。抑うつ気分を改善し、自分の気分をコントロールする方法を身につけるための最適の書。


前回(図1.4)MAO阻害薬と異なり、1950年代以降、実に様々な新しい抗うつ薬が開発・市販されてきた。
これらの新しい抗うつ薬は、シナプス前神経の内部で、セロトニンなどの伝達物質を蓄積させることはない。その代わり、これらの薬は、シナプス前神経もしくはシナプス後神経の表面にある受容体に付着することにより、脳内に自然に存在する神経伝達物質の作用を真似る働きをする。

新しい抗うつ薬がどのようにして、このような作用を可能にするのかを理解するために、脳の働き(1)の錠と鍵のたとえを思い出していただこう。自然な伝達物質は鍵のようなもの、一方、神経の表面上に位置する受容体は錠のようなもの、と考えてほしい。鍵が錠を開くことが出来るのは、ひとえにその鍵が錠とぴったり一致する形をしているからである。

抗うつ薬は、製薬会社が製造した偽物の鍵のようなもの、と考えよう。

セロトニン、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、ドーパミンなどの自然な伝達物質の形を立体的に捉えることで、それらとそっくりの形をした新しい薬を製造することが可能。これらの薬は神経の表面上にある受容体にぴったり納まり、自然の伝達物質の作用を真似る。脳は、まさか錠に納まっているのが抗うつ薬とは夢にも思わないだろう。
---当然、自然な伝達物質が、神経の表面にある受容体に付着しているもの、と騙されてしまう。

理論的にいえば、人口の鍵(抗うつ薬)は、受容体に付着した際、次の二つの作用のうち、いずれか一方を引き起こすとされる。

 (1)それによって鍵が開くか
 それとも
 (2)実際に鍵が開かないまま、鍵穴だけがそれによって塞がれてしまうのか
のどちらか。

鍵を開ける薬は「作用薬(アゴニスト)」と呼ばれる。作用薬は単に、自然の伝達物質を真似るだけの薬。
一方、鍵穴を塞いでしまう方の薬は、「拮抗薬(アンタゴニスト)」と呼ばれる。拮抗薬は、自然の伝達物質の作用を遮断し、その効果を阻害する。

抗うつ薬が、シナプス神経及びシナプス神経上の受容体に及ぼす影響の仕方については、いくつか考えられる。

話を解り易く理解するために、シナプス前神経が使用する伝達物質はセロトニンである、と考える。とはいえ、あくまで同じことが他のどの伝達物質にもまったく同様に当てはまることを承知おきしておいてほしい。

◆ここで、再取り込みポンプ上の受容体を遮断したとしたら、はたしてどうなるだろうか?

シナプス神経は、もはやセロトニンをシナプスから取り込むことができなくなってしまう。神経が発火するたびに、ますます多くのセロトニンがシナプス領域に放出されていしまうことになる。

これこそまさに、現在処方されている抗うつ薬の作用の仕方である。

図1.5に示す通り、抗うつ薬によって、シナプス前神経上にある再取り込みポンプの受容体が遮断されると、シナプス領域には伝達物質がどんどん蓄積されてくる。このプロセスは、最終的に前回説明したMAO阻害薬を投与した際と同様の作用をもたらすことになる。これらのどちらの場合にも、シナプス領域におけるセロトニン濃度は上昇していく。そのため、シナプス前神経が発火すると、通常以上の量のセロトニンがシナプスを「泳いで」渡り、シナプス神経を刺激して発火させることになる。またしてもここで、セロトニン系のいわゆる「ボリュームアップ」が生じることになる。



◆はたしてこれはよいことなのだろうか?

これこそが、抗うつ薬が気分を改善してくれる仕組みなのだろうか?
確かに、この仮説は現在、広く受け入れられているが、実際のところ、その本当の答えはまだ誰も解らないままである。

抗うつ薬が異なれば、それによって遮断されるアミンポンプも異なる。また、抗うつ薬によっては、他のと比べより特効的な作用をもたらすものもある。


◆「三環系」抗うつ薬

⇒比較的古くからある「三環系」抗うつ薬は、セロトニンとノルエピネフリンの再取り込みポンプを遮断する。
 (三環系という用語は、三輪車のように「3つの輪」を意味する。こらは、三環系の薬が輪のように連なって結合する、3つの原子からなる科学的構造をしていることに因る)
そのため「三環系」抗うつ薬を服用すると、これらの伝達物質が脳内に蓄積することになる。「三環系」抗うつ薬の中には、セロトニンポンプに比較的強く作用する種類もあれば、ノルエピネフリンポンプに比較的強く作用する種類もある。

セロトニンポンプにより強い作用を及ぼす薬⇒「セロトニン作動性」
ノルエピネフリンポンプにより強く作用する薬⇒「ノルエピネフリン作動性」
ドーパミンポンプにより強く作用する薬⇒「ドーパミン作動性」
と呼ばれる。

○アミトリプチリン(トリプタノール)
○イミプラミン(トフラニール)
など。

◆「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」(略してSSRI)

○フルオキセチン(Prozac) ⇒※「セロトニン作動性」が非常に強い

比較的新しい抗うつ薬の中には、セロトニンポンプに対して非常に選択的で、特効薬な作用を及ぼすという点で、より古い三環系抗うつ薬とは異なるものがある。

フルオキセチン(Prozac)は「セロトニン作動性」が非常に強い薬で、これを服用すると脳内にセロトニンが蓄積される。しかしながら、プロザックが遮断するのは、あくまでセロトニンポンプだけであるため、ノルエピネフリンやドーパミンなど、他の伝達物質は蓄積されない。このような働きをする抗うつ薬のひっとつであるプロザックは、セロトニンポンプに選択的で、特効薬的に作用することから、「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」(略してSSRI)と呼ばれる。
このSSRIはセロトニンポンプだけを遮断し、それ以外のポンプは一切遮断しない、ということ。

また、新しい抗うつ薬の中には、それほど選択的ではないものもある。ひとつの種類に限らず、複数の種類の再取り込みポンプを遮断するものに、ベンラファキシン(Effexor)がある。

 ⇒セロトニンとノルエピネフリンの両方のポンプを遮断する。→(二重(デュアル)再取り込み阻害薬)
 ⇒古くからある三環系抗うつ薬の幾つかと比べ、副作用が少ない。

シナプス神経のセロトニン受容体を直接刺激する、つまり自然のセロトニンの作用を真似ることになる、一種の偽造セロトニンの作用をする薬にブスピロン(BuSpar)がある。ブスピロンには初の非常用性抗不安薬として発売された。幾分穏やかな抗うつ作用もある。しかし、その抗うつ特性も抗不安特性も特に強力というほではないことから、結局、不安やうつ病の治療薬としてはさほど人気が出なかった。


シナプス神経のセロトニン受容体を遮断する薬で、自然のセロトニンのもつ作用を阻害することから、理論的には、うつ病を悪化させると考えられる。セロトニン受容体を遮断する薬には、
 ○ネファゾドン(Serzone)
 ○トラゾドン(デジレル、レスリン)
  ⇒セロトニン拮抗薬に分類されるが、抗うつ薬としても使われる。

図1.6がシナプス神経のセロトニン受容体を遮断するイメージである。



薬によっては、シナプス前神経、シナプス神経の数種類の受容体に複雑な作用を及ぼすものもある。
例えば、
 ○ミルタザピン(Remeron) ⇒米国で1996年以来販売している新しい抗うつ薬

シナプス神経のセロトニン受容体を刺激するように思われるが、シナプス神経上にあり、ノルエピネフリンを伝達物質として使用する受容体も刺激する。これによって、これらの神経から放出されるノルエピネフリンが増加する。したがって、ミルタザピンを服用するとセロトニン系が弱められ、逆にノルエピネフリン系が強められる

これら、ネファゾドン、トラゾドン、ミルタザピンの抗うつ作用は、セロトニン仮説から予想される作用とはまさに正反対である。

◆セロトニン系を弱めるにもかかわらず、抗うつ薬であるというのは、いったいどういうことだろうか?

脳内はさまざまな種類の受容体が存在し、そのそれぞれが全て異なる作用をする。しかも、脳内のさまざまな回路間では、複雑で数多くの相互作用が相当なスピードで起っていることも忘れてはならない。脳内のある領域における神経系統のひとつを動揺させると、脳内の他の領域にある数億にのぼる他の神経にも瞬間に変化を及ぼすことになる。

詰まるところ、たとえ世界のトップクラスの神経学者といえども、これらの薬がなぜ、またいかにしてうつ病に効果を発揮するのか、明確に理解している訳ではない。

要するに、現在処方されている抗うつ薬のほとんどは、セロトニン、ノルエピネフリン、ドーパミン系統のいずれかに作用するということ。ひとつの伝達物質系にのみ非常に選択的に作用する抗うつ薬もあれば、多くの伝達物質系に作用するものもある。しかし、ではなぜ、現在処方されている抗うつ薬が、これら三つの神経伝達系統に及ぼす作用が有効なのか、ということになると十分に一貫した説得力のある説明がないのが現状である。

たとえば、抗うつ薬の中には、セロトニン濃度を引き上げるものもあれば、セロトニンには一切、何の作用も及ぼさないものもあることは前述のとおり。しかし、これらはいずれもほぼ等しく有効な抗うつ薬である。図1.4から図1.6に描かれている模式図が、極端に簡略されたものであることは明らかであるが、抗うつ薬の作用を巡って現在唱えられている仮説とはいえども、せいぜいよくて不完全なものに過ぎないといわざると得ない、とバーンズ博士は結んでいる。


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<図1.1~図1.4模式図>



シナプスを渡ったセロトニンは、シナプス神経の受容体に付着する。


その後、セロトニンは再びシナプス神経へと泳いで戻ってくる。













(2012/01/28 17:00)


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