気分障害スペクトラム(2)

2012
1/4
水曜日

複数回に分け、『気分障害スペクトラム』について勉強していきたい。
一気に書き上げても誰も読んでいただけないので(バイポーラ系は不人気である)、読み切りとしたいが、恐らく、読み飽きるだろうことは重々承知の上である。

以下の4ステップについて順追って解説する。今回はステップ2。
  ■STEP1:気分障害スペクトラムの中間部分を理解しよう
STEP2:軽躁病を理解しよう
  ■STEP3:どうやって軽躁病がわかる?症状を理解しよう
  ■STEP4:気分障害スペクトラムの最終版


内容は「「うつ」がいつまでも続くのは、なぜ?-双極Ⅱ型障害と軽微双極性障害を学ぶ」から採り上げている。著者のジム・フェルプス氏は、学者ではなく、一週間のほぼ毎日、ほぼ一日中患者をみている臨床医(精神科医)である。机上の空論者の学者肌ではないことを付け加えておく。

「うつ」がいつまでも続くのは、なぜ?-双極Ⅱ型障害と軽微双極性障害を学ぶ


ジム・フェルプス 荒井 秀樹
4791107624

■内容紹介
うつ病と診断される人が増えている中、「落ち込んでいる」とか「意欲がわかない」といった抑うつ状態が長期間にわたり持続したり繰り返したりする人たちを、すべて同じうつ病と診断していて間違いはないのか? 本書は、長引く抑うつ状態に苦しんでいる人に対して、双極II型障害や軽微双極性障害を念頭において、診断や治療を見直しながら、主治医とともに病気を克服していくための対処方法を示している。また気分障害をスペクトラムとしてとらえる考え方を学ぶ。

■内容(「BOOK」データベースより)
うつが長いこと持続したり、繰り返したり、より悪くなる、などということはありませんか。抗うつ薬をのんでも効果がないとかより悪くなるということはありませんか。もしかすると、うつ病ではないのかもしれません。繰り返すうつの波は、「軽微な」双極性障害のせいかもしれません。本書は、気分障害スペクトラムの概念を詳説し、すぐに実践できる対処法を紹介する。





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■STEP1:気分障害スペクトラムの中間部分を理解しよう

以前にも話題に採り上げたが、精神科診断の公認診断基準書として知られている「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)」には、気分障害スペクトラムのカテゴリーはない。

※過去に採り上げた話題
「DSM-IV-TR」と「ICD-10」の分類・定義
今一度知る双極性障害の『大うつ病エピソード』
今一度知る双極性障害の『躁(そう)病エピソード』

新たな考えによる『気分障害スペクトラム』は、大うつ病と双極性障害はスペクトラム(連続体)の両端に存在して(図1.1のように)、その間に程度の違った症状を持つ人がいる。

図1.1に「気分障害スペクトラム」を記す。

図1.1で判るようにスペクトラムの一端は「単極性」のうつ病(DSMでは大うつ病と呼ぶ)で、もう一端は「双極性」障害となっている。

■DSM対気分障害スペクトラム
精神科診断についてスペクトラム上で捉える考え方を理解するためには、現在主流のDSMのシステム、つまりスペクトラムとは反対のやり方を理解することが大切。
スペクトラムのシステムでは、図1.1のように連続体で状態を判断される。
DSMでは特定の所見が見られるかどうかで判断される、が大きな違いとなっている。

■気分障害スペクトラム:ちょっと違った考え方
DSMでは、正確な診断をする上で、うつ病を持つ患者の症状が、単極性障害か、双極性障害かを見極める必要がある。それに対して気分障害スペクトラムを用いる場合は患者の症状は何かを問わない。むしろその症状が気分障害スペクトラムのどこにあるのかを問う。

気分障害スペクトラムで診断を受けることには2つのメリットがある。
 1.効果的な治療の手助けになる
 2.将来へのヒントになる
   (この症状はなくなるのか?、どの程度悪くなるのか?、再発するのか?、
   自分の子どもも同じ病気になる可能性はあるのか?、など)

図1.1で気分障害スペクトラムを均等に細かく分けて患者の位置を示している矢印は、本当にこのような感じなのだろうか?
連続体上の矢印全てにそれが当てはまる人がいるのだろうか?
或いは矢印の一つ一つの間に自然と隙間が出来ているのだろうか?
いえ、隙間は見あたらないのである。(イタリアの気分障害者の研究者フランコ・ペナッツィが発見)

双極性障害の症状が少なくなってくるスペクトラムの中間辺りには「混在している部分」があるはず。
左側にいくに従って、双極性がゼロになってくる。
従って、気分障害スペクトラムを使うと「少しの双極性症状」を持っている人もいることがわかるだろう。






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STEP2:軽躁病を理解しよう

軽躁病がどのようなものかを詳しく見ていこう。
現実を見て混乱する前にまず、DSMの正式な定義を明らかにしておこう。
我々はDSMの定義から臨床記述を支えている基準を表して、精神状態を診断するためのシステムを作るもの。よってDSMを参考にして、患者の体験を解析するのが臨床医の仕事である。この点では「気分障害スペクトラム」が有効であると本書では述べられている。

DSMは
・軽装病と躁病の症状が全く同じ。二つを区別する定義はない。

ここでDSMシステムの一覧のうち三つ以上の症状に加えて患者の正常状態とは明らかに異なる気分変動(「高揚、寛容、苛立ちなど」)が条件になる。

1. 思い上がった自尊心、または誇大妄想
2. 睡眠欲求が減る(たった三時間の睡眠でも平気)
3. .普段よりおしゃべりになる、またはしゃべり続けなくてはいけない気がする
4. 考えが不安定、または主観的に見て、頭が急速回転している
5. 注意力の散漫(些細な、または関係の無い外的刺激に気をとられる)
6. 目標指向性の行動が増える(職場や学校など社会的なものも、性的なものどちらも)、または精神運動性激減
7. 痛ましい結果を生む可能性の高い快楽行動に没頭しすぎてしまう(金遣いが荒い、謝った性行動、あるいはあり得ない話への投資等)


図1.2に「「躁病」のスペクトラム」を記す。


ひとつひとつ見ればそれほど異常ではない。「正常」と軽装病のあいだにはっきりした境界線はない。このことが図1.2に反映されている。
気分障害スペクトラムの右へ向かうにつれて軽装病の症状が増えていることが分かる。

■軽装病と躁病の違い
DSMでは、躁病と軽装病を区別するには二つの特徴がある。

1.四日間続けば軽装病と診断できるのに対して、躁病は一週間続かなければならない。
2.軽装病は社会生活での機能、または職場での機能を害することはない場合がある。一方で躁病では必ず問題になる。

著者は少しズルをしていると曝露しているが、わかりやすくするために二つの特徴を省いているという。
DSMの基準では、軽装病が精神病とは無関係だと言っている。よってDSMの定義からすると、現実を見失っている人は躁病と診断される事になる。さらに軽装病は入院する必要がないが、躁病はその必要がある。しかし一般的に精神病になると社会生活や職場での機能に非常に悪影響を及ぼす。
さらに最近では入院させること自体が社会生活や職場での機能を害する病状の時のみである。
著者はこれら二つの特徴を入れなくても問題はないと述べている。

症状の継続期間(軽装病の四日間に対し躁病の一週間)に関しては、多くの気分障害の専門家の間では長すぎると考えられている。なぜなら実生活において、軽躁の症状がもっと短い期間だけ起こることもよくある。例えば、一日も続かない軽躁(または躁さえも)があることはよく知られている。日内交代型という名前も付いていて、特定の遺伝子と関連すると考えられている。言い換えれば、DSMで定められた軽装病の期間は診断基準として重視されていないということになる。それどころか度々無視されている。この期間設定は現代の研究成果を反映していないようである。

従って軽装病と躁病は「社会生活や職場での機能障害がある」という点で区別される。
曖昧だと思わないか?
例えば職場でとてもよく仕事が出来て、半分のスピードで働いても最低限上司を満足させることが出来るような人は「職場での機能障害」と言われるだろうか?双極性障害における他の多くの特徴のように、完全な障害から軽度の障害まで、この機能障害もまたスペクトラム上に存在する。よって詳しく見ていくと、DSMの基準では軽装病と躁病を区別しにくい。

図1.2「躁秒のスペクトラム」の斜面図を見てみよう。
その前に、整理しておきたい点がある。
DSMシステムで、軽装病の特徴のある双極Ⅱ型障害が、躁病の特徴のある双極Ⅰ型障害と区別されているのには理由がある。

どちらの双極性障害にもその家系で同じ双極性が続く傾向にあるからである。
つまり、双極Ⅱ型障害の家系にいるのは双極Ⅱ型障害の子供であるし、双極Ⅰ型障害の家系にいるのは双極Ⅰ型障害の子供である。(これは一般論で多少例外も見られる)

この遺伝型の双極性障害は、ブリーディング・トゥルー(breeding true)と言われている。

また双極Ⅰ型障害は他の双極性障害よりもリチウムに対する反応がやや良い。リチウムは双極Ⅱ型障害にも効く場合があるが双極Ⅰ型障害ほど多くは効かない。これにより図1.2の小さな段差のように気分障害スペクトラム上での途切れが見られる。
この点を除けば、軽躁病はそのまま中断地点がなく、ゼロ(短極性)に向けてなだらかに減少する傾向を描き続ける。

今回は、ここまで。
図1.3、図1.4の説明は次回へ。






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■STEP3:どうやって軽躁病がわかる?症状を理解しよう

図1.3に「軽躁病と躁病の点を取る」を記す。








■STEP4:気分障害スペクトラムの最終版
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図1.4に「完成した気分障害スペクトラム」を記す。







(2012/01/05 0:30)

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