今一度知る双極性障害の『感情的な思考をコントロールする』

2011
12/25
日曜日


「バイポーラ-(双極性障害)ワークブック」から第9章「感情的な思考をコントロールする」の要点をピックアップしたい。

【参考文献】
chapter1:疾患をコントロールする
chapter2:双極性障害の実際
chapter3:自分の経緯を図式化する
chapter4:早期予防システムを発動させる
chapter5:自分自身を強化する
chapter6:薬物療法の効果を最大限に得る
chapter7:「否認」の壁の克服
chapter8:思考の誤りの認識と把握
chapter9:感情的な思考をコントロールする
chapter10:精神的メルトダウンを反転させる
chapter11:改善へ向けた変化

バイポーラー(双極性障害)ワークブック―気分の変動をコントロールする方法
モニカ・ラミレツ・バスコ 野村 総一郎
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双極性障害(バイポーラーディスオーダー)による「気持ちの揺らぎ」を抑制する具体的対処法を、認知療法的な手法を用いて、分かりやすく解説。ガイドライン(治療指針)は患者さんへの指導書として治療者が使用でき、障害を持つ患者さん自身が使う自習書としても最適な治療読本。



本章では
○思考記録をつける
○ネガティブな思考と躁的な思考の正確さを評価する方法を学ぶ
○生きる理由、および希望を持つ理由を探ることにより、自殺念慮に対抗する

2節 【復習】思考をコントロールするための3つのCの方法
- ■思考記録
ワークシート9.1 思考記録
- ■思考を評価する
表9.1 思考の正確さを評価するための方法
ワークシート9.2 自分の思考を評価する
ワークシート9.3 生きる理由
- 自殺念慮
ワークシート9.4 希望を持つ理由




■思考をコントロールするための3つのCの方法【復習】


前回の中で、「思考をコントロールするための3つのCの方法」について説明した
「本節の目的は、気分または感情が自分の知覚を歪めていることを認識することができるよう、そして自分の手助けになること
・過剰に感情的な思考が生じるときにそれを捉えることができれば、自分の反応を、コントロールされるのではなくコントロールすることができる
・そのための1つの方法は、過剰に感情的に考えているとき自覚すること
・自分の反応をコントロールする方法の1つは、自分にとって最も良いと思われる一連の行動を選択すること
・そしてもう1つは、感情的な考えを修正し、間違った方向へ導かれることがないようにすること


とらえる (Catch) 思考の歪曲が起こったときにそれらをとらえる
コントロールする (Control) それらが自分の行動に影響を及ぼさないようにする
修正する (Corect) 論理上の過ちをすべて正す

・歪曲した考えをとらえるためには、何を探すべきかを知らなくてはならない
・うつ病と躁病の思考への影響の仕方にはいくつか一般的なパターンがある
・それらは”思考の誤り”と呼ばれる
・うつ病のときと躁病のときに人が犯す、いくつかのより一般的な誤りを説明するが、これらの思考の誤りのうち、いくつかでも自分がそれを犯していると自覚できれば、間違った方向へ導かれてしまう前にその歪みを修整する機会が得られる

とらえる:ストレスの多い状況に反応する中でそれぞれの思考の誤りを犯したかもしれないことを思いだすこと
コントロールする:思考の誤りをコントロールするための方法を知ること
修正する:思考の歪曲が生じるたびにそれを修正すること


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■思考記録


思考記録(ワークシート9.1)は、3つのCをやり遂げることができるよう手助けするためのツール
・3つのCとは、自分の歪曲した思考を捉える(catch)、それらが行動にネガティブな影響を及ぼさないようにするためにそれらをコントロールする(control)、そしてより論理的に理にかなった考え方ができるようにそれらの歪曲を修正する(correct)、というもの
・思考記録は、悩まされているときや苦しんでいるとき、あるいは感情や症状が思考に影響をおよぼしている可能性があるときに心に浮かんでくる感情をリストアップするための構造を提供する

ワークシート9.1 思考記録

出来事

思考 感情 思考の誤り

あなたの思考と感情の引き金となったのは何か

その出来事が起こったときに、あなたの心に飛び込んできた思考をすべて書き留めてみよう
空欄に1つずつ思考を書きいれてみよう


どのような気分を経験したか
感情や身体的感覚も含めてみよう

何か思考の誤りを同定できるか



















●自分の思考を書きとめ、そのあとそれらを分析するか、あるいは変えた方が、頭の中でそれをすべてやってしまおうとするよりも簡単
●一度にたくさんの思考が頭に浮かんでおり、そのすべてが重要である場合がある
 それらを書き出すことで、1つずつ取り組んでいくことができる
●紙の上に書き出された自分の思考を目にすることは、論理的な過ちをすばやく同定するのに役立つ
 書いたものを目にするまでは、ネガティブな思考を真実と信じてしまいがち
●ネガティブな思考は、繰り返し生じる傾向がある
 そのため、自分がどのようにしてネガティブな思考に取り組んだのかを覚えておきたいなら、思考記録をつけることで自分の記憶に頼らなくてもよくなる
●自分の取り組みを医師やセラピストに話したいと思うなら、気分を動揺させた出来事と、そのときに抱いた思考や感情を思い出そうとするよりも、思考記録を見せる方が簡単





■思考を評価する


・出来事に反応して即座に抱く思考は、過剰にネガティブであったり、あるいは過剰にポジティブであったりする
・ときには、これらの思考は歪曲していることもあるだろうし、正確なこともあるだろう
・自分の思考が真実であるか、それとも偽りなのか、確信がない場合は、それをテストしてみる必要がある
・表9.1に、自分の思考の確かさを調べるためのいくつかの方法を挙げる



表9.1 思考の正確さを評価するための方法
1.

第8章の思考の誤りの例に(★リンクを付ける★)、もう一度すべて目を通す。そして、自分の思考がそれらの誤りの分類のどれに当てはまるかどうかを確かめる。

2.

他の人に意見を求める。彼らもあなたと同じように状況を捉えているか。彼らはあなたが過剰にポジティブであるか、過剰にネガティブであると考えてはいないか。

3.

ワークシート9.2を用い、自分の思考が事実であることを裏付ける根拠を全て書き留める。自分の考えが偽りであることを裏付ける根拠で、あながた把握していることを全て書き留める。両者の根拠を比較する。

4.

あなたを動揺させた、またはあなたの感情を駆り立てた出来事に対して、ほかの考えられる解釈をよく検討する。心に浮かんできた最初の結論に飛躍してしまったという可能性はあるか。最初の考えが必ずしも常に最も正確であるとは限らないことを覚えておく。それらは単にあなたの最初の考えに過ぎない。

5.

誰かほかの人が同じ状況にあったとしたら、あなたはその人にどのように言うか、自分自身に尋ねてみる。別の人間にあなたがフィードバックを与えているふりをする。その言葉を書き記し、その提案に従う。







ワークシート9.2 自分の思考を評価する


私の考えは、                                                            

私の考えが事実であることを裏付ける、どのような根拠があるか




















私の考えが事実でないことを裏付ける、どのような根拠があるか

この状況で、ほかの人ならなんと言うか
ほかにどのような解釈ができるか

私の結論と、次にすることの計画




・ある思考に有利な根拠と不利な根拠について検討する際には、どのようなことであれ結論を導き出す前にそれぞれの根拠の重要性を考慮する必要がある
・思考記録と思考分析を完成させたら、当初の思考を再度振返り、よく検討する
・自分が当初感じた感情の激しさについて何が変わったか
・自分の感情がまだかなり激しい場合は、感情的な思考に対処するための、第8章、第9章で取り上げている方法から1つを試してみよう






■自殺念慮


■自殺念慮

・死または自殺に関する思考がもっともらしく感じられることがある
・心を慰めるものに感じられることもあるかもしれない
・ひどいうつ病になると、自分には死ぬしか選択の道はないと確信しかねない程、暗い考え方をするようになることもある
・これらは、自分の命を奪うことを企てるうちに、しばしば自分に対する有害な行動へといってしまう恐ろしい考えとなる

・自殺年慮は多くの形態をとることが考えられる
・最も重篤な形態では、自殺をするように命じる声が聞こえてくることがある
・これは幻聴で、うつ病の時に脳の中で生じる生物学的な変化が引き金となって起こる
・そららは自分の真の考えではない
・自殺念慮のより穏やかなものには、死に関する漠然とした考え、またはただ逃げ出してしまいたい、消えてしまいたい、という願望が含まれている
・中程度では、そうなるよう必ずしも自分で何かをするわけではないが、死んでしまうならそれはそれで構わない、と考えることがある
・平和に眠りに落ち、そのまま目が覚めなければいいのに、と願う人もいる

・死または自殺について考えるというのは、未来について絶望に駆られたり、何も変えることができないと無力感に襲われたりした結果であることが通常である
・自分の問題に対してほかに何の解決策も考えられず、頑張って続けていく理由が全く見当たらないとき、死が許容可能な選択肢であるかのように思われ始めることがある
・自分の生活をよりよいものにする機会を得るには、何か新しいことを学べる位の期間は生き続けていなくてはならない

死と死ぬことについての思考を撃退するために、ワークシート9.3の演習を試してみよう

 -自分の生きている理由を挙げてみよう
 -人生は生きるに値するのだろうかと疑問に駆られたとのために備え、あらかじめ計画を立てておこう
 -調子が良くないとき自分自身に思いだせることを挙げてみよう






ワークシート9.3 生きる理由

生き続けていく理由を挙げてみよう。人生について暗い考えを抱き始めたら、もう一日がんばってみるためのこれらの思い出すためにリストを見渡してみよう


どうしてこの世を去るべきではないのか





誰のために生きているのか





失ったら残念に思うもの





未経験なこと





自分にとって重要なこと









◇なぜ希望をもつべきなのか

・自殺思考を抱いてしまうほど落ち込んだ気持になると、自分の問題を解決するには死ぬしかないように考えてしまうことがある
・自分のいるスランプから抜け出せる自信を一時的に失ってしまったのかもしれない
・他の人が励ましてくれたり、良くなれると信じてくれても、それを過小視してしまうのは、それがその時のネガティブな考えと一致しないため
・未来について期待を抱くに足りる十分な理由はあるかもしれないが、ひどいうつ病のときには視野が狭くなり、考えを曇らせてしまい、それらの理由が見えなくなってしまう
・だからこそ、希望を失うべきではない理由を、より自信や希望を抱いている時にリストに挙げておくのが一番良い
・そしてうつ病のときは、そのリストを読み、自分にはもっとポジティブな見方が可能であるということ、希望を抱くべき理由があることは自分もどこかでわかっているということを思い出すことができる

ワークシート9.4に、未来には希望があると信じる理由を挙げてみよう


ワークシート9.4 希望を持つ理由


私が希望をもつ理由

































次にいくつか質問をしよう
これらは希望を失わない理由を思い出すのに役立つかもしれない

●改善が期待できるようなことを何か、今しているか
 自分にできることはあるか
●自分を落ち込ませる問題は一時的なものである可能性は高いか
 それらは時間によって自然に解決するか
●どうしてほかの人は、未来には希望があると信じるのか
●自分がまだ努力をしつくしていないという可能性はあるか
●以前にこのような経験をしたことがあるか
 たいていは時間、努力、または忍耐によって状況は改善したか

・ときどきリストを見直し、希望をもつために考え付く新しい理由を加えてみよう
・人生は生きるに値するものだろうか、と疑問に思い始めた時に見ることができる場所にリストを保管しておこう

>>>警告<<<

●自殺をめぐる幻想は非常に誘惑的になりえる。生きるよりも死んだ方がいいという考えへあなたを巧みに誘ってしまう可能性がある。
●自殺をめぐる幻想は偽りの安らぎを与えることがある。それは、あなたをだまし、死はあなたの問題の妥当な解決策であると信じ込ませてしまうかもしれない。
●自殺をめぐる幻想はあなたを欺き、誰も気にしないだろうと思わせてしまう。それらの幻想のせいで、自分などいない方がみんな都合がよいという偽りのイメージを作り上げてしまう。そ自分がいなくなったときの嘆きと苦痛を見えなくさせてしまう。それらは、あなたを救うことができなかったことで家族や友人が駆られる罪悪感を、あまたに想像できなくさせてしまうもの。
●幻想はあなたにとって自殺を図る可能性が高くなる。自殺を図った親をもつ子どもは自分自身も自殺を図る可能性が高くなる。自殺は、愛する人々の行く末も似たように運命づけてしまうことがある。


★最後の最後になるまで助けを求めるのを待たないこと
★死んでも構わないという思いが浮かんでしまうことに気付いたら、誰かに相談すること

もし以下のうちのいずれかを経験した場合には、助けを求めよう
 ●その実行方法をめぐる幻想も含めた自殺念慮
 ●繰り返し生じる死への漠然とした考え
 ●気付くと自分の所有物を人に譲っている
 ●家族、友人、またはペットに別れを告げている自分の声が聞こえる
 ●あなたがいなくても生きていくよう、人々に心の準備をさせ始めている
 ●自分の周りにある、自殺を図る助けとなりうるものに目が留まるようになる
 ●過剰服用にいたる十分な量を所持するたびに、密かに薬を蓄え始めている
 ●注意書きが自殺の処方箋のようにみえる



このワークブックの目標は、自殺が魅力的な考えに思え始めてしまう前にうつ病と躁病の症状をコントロールする方法を教えること
自分の気分の変化を随時観察する演習を用い、できる限り薬を一貫して服用し、そして症状をコントロールするためにこれまでの方法を学んで、うつ病と躁病のエピソードがコントロールを逸しないように止めることができるだろう。




次回は、第9章『感情的な思考をコントロールする』について触れたい。

【バイポーラ(双極性障害)ワークブック 全トピックス】 ※新しいページで開きます
「DSM-IV-TR」と「ICD-10」の分類・定義
第2章(抜粋) 今一度知る双極性障害の『大うつ病エピソード』-Major Depressive Episodes-
第2章(抜粋) 今一度知る双極性障害の『躁(そう)病エピソード』-Manic Episodes-
第3章 今一度知る双極性障害の『自分の経緯を図式化する』
第4章 今一度知る双極性障害の『早期警報システムを発動させる』
第5章-1 今一度知る双極性障害の『自分自身を強化する(前編)』
第5章-2 今一度知る双極性障害の『自分自身を強化する(後編)』
第6章 今一度知る双極性障害の『薬物療法の効果を最大限に得る』
第7章 今一度知る双極性障害の『「否認」の壁の克服』
第8章-1 今一度知る双極性障害の『思考の誤りと認識と把握』
第8章-2 今一度知る双極性障害の『思考の誤り「誤認(過大視・過小視)」』
第8章-3 今一度知る双極性障害の『思考の誤り「結論への飛躍」』(読心術、運勢判断、破局視、個人化)
第8章-4 今一度知る双極性障害の『思考の誤り「視野狭窄」』(選択的知覚、心理的フィルタリング)
第8章-5 今一度知る双極性障害の『絶対思考(白黒思考、レッテル貼り、すべき思考)』
第9章 今一度知る双極性障害の『感情的な思考をコントロールする』
第10章 今一度知る双極性障害の『精神的メルトダウンを反転させる』
第11章 今一度知る双極性障害の『改善に向けた変化』








(2011/12/25 17:28)


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