出た。
熟成したデッカイいヤツではなかった。
体長が1cm位のかわいげのある「ゴキ坊」だった。
心苦しかったが、殺生させていただいた。
成仏せんことを。
ここに初めて入居した早早、「長老ゴキ」に歓迎された。
どうも村長か、酋長か、親分肌の「ゴキ親分」だろう。
めっぽう成長した全身が黒光りしたヤツらだった。
私の部屋は男としては綺麗な部類に属する(はずだ)。
食べ残しを無造作に放置することもなく、
(言い添えるのなら食べ物を粗末にできる余裕はない)
片付け後の水回りは、布巾で水分を拭き取ることは忘れない。
週に一回は部屋の掃除をする。
天気がよければ布団を干すことも欠かさない。
然るに、初めてソヤツたちに歓迎された時、
こちらに非があるような原因は思い当たらなかった。
間違いなく「自責」ではなく「他責」だ。
どこかに「ゴキ様御一行」の進入経路があるはずだ。
あった。
キッチンの配水管が床の部分で交差する部分だった。
周回部分に8mm程の隙間があったのだ。
その間隙を縫っておいでなすったのだ。
”動かぬ証拠”を掴んだ。
推測するに隣の部屋か、その隣の部屋が小汚いに違いない。
「ゴキ養殖場」、もしくは「ゴキ生産一大拠点」と考えるのが妥当ではないか、と。
(現場をガサ入れしたわけではない、既に当時の住人は引越し、証拠物件は隠滅した)
特急で粘土を買い求め、棒状に伸ばし隙間を埋めた。
効果覿面だった(はずだ)。
少なくとも9年間は一度たりとも「ゴキ様」に歓迎されたことはなかった。
もしかすると「ゴキ達」は、突破口を見出すため新たな進入経路を
探し求め、日々精進しながら掘削作業に邁進していたのかもしれない。
厳かに「開通式」が執り行われた。
「ショーシャンクの空に」のアンディ・デュフレーンや
「モンテ・クリスト伯」のエドモンとフェルナン牧師のように。
不思議に思うが「ゴキ達」は、何故私を開通式に招待しなかったのだろう。
隣近所としてお付き合いをしていく良いきっかけとなったのに。
そちら様がその気なら、こちらも徹底抗戦する以外に活路はない。
更なる進入経路の探索を開始することにした。(2011/09/24 9:38)
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