『オルタード・カーボン』リチャード・モーガン著 2010
9/23
木曜日
秋分の日

 春先、本屋で買って寝かせてあった『オルタード・カーボン』上下巻の文庫本。腰巻きに「フィリップ・K・ディック賞受賞」の文字が飛び込んだからだ。これは読まずに済まされない。

 上下で850ページを越える大作だ。久々のハードボイルド、SF、ミステリー、サスペンスを合併したような骨太な作品だった。

 時は27世紀、人間の記憶や感情はメモリ-・スタックに保存することができるディジタル人間が存在していた。体はスリーヴと呼ばれ、金持ちであれば、買うことが出来、もっと大富豪になれば自分のクローンを何体も保持し、自動的にメモリ-・スタックはバックアップされる仕組みがあった。既に「死」とは一部の階層には無縁の世界で、何百年も生きることができる。スリーヴさえあれば、記憶や感情をもう一度ダウンロードすればよいのである。

 ここまで書くと、なにか胡散臭い、チープなSFではないか、と思われるだろうが、いやいやなかなか歯切れよくウィットな人間くささも充分楽しめる会話ありの、テンポよく進む緻密なプロットは傑作のよばれたかい。全体的に映像的で視覚的なのである。

 ゆえに本書は『マトリックス』のプロデューサー、ジュエル・シルバーが映画化権を買っていることからも、スクリーンでお目にかかるのも遠いことではないだろう。しかし、本書を映像化することは容易じゃないし、期待を裏切られてしまうのだろうと、いつものことながら映画化の限界も感じてしまう。単純にエンターテイメントな部分やアクションシーンだけが浮き彫りにされるのではなく、主人公タケシ・コヴィッチの心の葛藤、泥臭い部分、エッチな行動も充分に映像化してくれることを願っている。(2010/09/23 15:06)

オルタード・カーボン(上)
リチャード・モーガン 田口 俊樹

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おすすめ平均 star
star3行読んだだけで27世紀へ!
star上下同時に買った方が良い
star非常に面白く読めました

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リチャード・モーガン 田口 俊樹

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starハードボイルドは文章が命
star死神はもはや過去の遺物となった

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内容紹介
舞台は27世紀。設定はサイバーパンク、ストーリーはオーセンティックなハードボイルド・ミステリ。単なるSF、ミステリー、サスペンスの枠にとどまらない、『ブレードランナー』を超えるフューチャー・ノワールの傑作。フィリップ・K・ディック賞受賞作!

《あらすじ》
二十七世紀。死はもはや永遠ではない。人類は銀河系の惑星に散らばり、国連の専制支配下にある。人間の心はデジタル化され、小さなメモリー・スタックに記録されて頭部のつけねに埋め込まれている。肉体が衰え死を迎えるとスタックが残る。それを維持し、外側の肉体を買う金がある人間は永遠の生命を得られる。バックアップを取っていないメモリー・スタックを破壊された人間のみがR・D(リアル・デス=真の死)を迎える。犯罪者は精神のみを収容庫に拘禁され、財力がなければ肉体は売られる。

主人公タケシ・コヴァッチはハーランズ・ワールドという日系と東欧系の労働者が開拓した惑星で生まれ育ち、特命外交部隊「エンヴォイ・コーズ」に所属していた。高度な訓練を受け、神経システムを強化された完璧な兵士の集団だ。タケシはエンヴォイを除隊したあと、犯罪に加担して百七十年の保管刑を宣告され、ハーランズ・ワールドの収容庫に入れられていたはずだった。

だが刑期なかばにして、彼は見知らぬ男の姿で目覚めた。タケシの心は惑星間の電送によってここに送られ、この男の体にダウンロードされていたのだ。そして、ここは人類の故郷、オールド・アース(地球)のベイ・シティという都市だった。彼をここに呼んだのは、ローレンス・バンクロフトという何百年も生き続けている大富豪だ。バンクロフトは数日前、頭部を焼かれて死んでいるところを発見された。肉体のクローンとメモリー・スタックのコピーを所有していたのでまもなく生き返ったが、死ぬ前の二日間の記憶がなかった。状況証拠から警察は自殺と断定したが、バンクロフトは自分が自殺するはずがないと信じていた。四十八時間の空白を埋めたがっているバンクロフトは、おれの元上官レイリーン・カワハラにすすめられ、調査を依頼してきた。応じれば十万国連ト゛ルの謝礼金と新しい肉体が手に入り、ハーランズ・ワールドへ帰還して恩赦を受けることができるという。タケシは六週間の期限つきで調査を開始した。

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