『命もいらず名もいらず』山本兼一著 2010
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火曜日

 山岡 鉄舟(やまおか てっしゅう、天保7年6月10日(1836.7.34)~明治21年(1888)7月19日)は、幕末から明治にかけて実存した人物で、それらを歴史を絡めて描いた歴史小説で、読み応え十分、精神満腹であった。

 いろんな人物が入れ替わり、立ち替わり登場する。徳川慶喜、西郷隆盛、勝海舟、清水次郎長、明治天皇・・・・・

 武士として、剣を極め、膨大な書を書きため、禅も極めた。エピソードも数限りなく語られている。幕末から、黒船来襲から、明治維新への移り変わりが、慌ただしくも「鉄舟」の視点・視座で深く斬り込まれ、ぐいぐいと本書に惹かれ、引きずり込まれてしまった。お勧めしたい本である。

 文中から、まさに鉄舟の生きざまが凝縮されている。
-国とは、何か。
鉄舟は、ふと、そんなことを思った。
人が集まり、一つの国家をつくろうとすると、どうしても意見の齟齬が出てくる。
勝った者はよい。勝った者の思い通りの国ができる。
負けたものは、どうするのか。
唯々諾々と、勝者に服従するか。
鉄舟に答えはない。
-ただ、そのとき、その場で全力をつくす。
それだけが、鉄舟の信条であり、思想である。
-国のために全力をつくす。
ということは、鉄舟にとって、
-人のために、全力をつくす。
と同義である。


内容紹介
 『火天の城』『利休にたずねよ』に続いて、直木賞作家が、満を持して放つ、渾身の超大作。日本をどうする。お前はどう生きる。最後のサムライ・山岡鉄舟、堂々の生涯。幕府の旗本の家に生まれた鉄舟は、幼い頃から剣の修行に励み、禅を学ぶことで剣聖と呼ばれるにいたる。

単行本: 368ページ
出版社: 日本放送出版協会
ISBN-10: 4140055804
ISBN-13: 978-4140055809
発売日: 2010/3/25
単行本: 432ページ
出版社: 日本放送出版協会
ISBN-10: 4140055812
ISBN-13: 978-4140055816
発売日: 2010/3/25

 書の達人でもあったが、官位も金銭も身にまとおうとしなかったため貧しい暮らしであった。徳川慶喜のために身を賭し、後には朝敵であったにもかかわらず、明治天皇の教育係となるなど多くの仕事をなしとげるが、それは名誉のためではなく国家百年を考えた無私の行いであった。山岡鉄舟の生き方を通して、幕末から明治の近代国家へと移っていった動乱の日本を描き出し、戦後日本社会の歪みが露見し、惑うことの多い現代の私たちに、日本人としての生き方とは何かを問いかける。

著者について
 1956年、京都市生まれ。同志社大学文学部美学及び芸術学専攻卒業後、出版社勤務を経てフリーランスのライターに。1998年『信長を撃つ』(祥伝社)で作家デビュー。99年『弾正の鷹』で小説NON短編時代小説賞を受賞。2002年長編作『白鷹伝』(祥伝社)を発表。2004年、『火天の城』(文藝春秋)が第11回松本清張賞を受賞。同作品は映画化される。また『利休にたずねよ』(PHP研究所)で第140回直木賞を受賞しベストセラーになる。その他に『雷神の筒』(集英社)、『いっしん虎徹』(文藝春秋)などがある。現在最も人気・実力ともに備えた歴史小説家のひとりである。


(2010/04/06 23:30)


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