『火天の城/山本兼一著』 2010
3/2
火曜日

 今、レンタル映画でも出ているようだが、原作となった『火天の城』を読んだ。直木賞候補となったこともあり、ぐいぐいとその時代に引き込まれてしまう力作だ。城を造る一大プロジェクトで、材を尊ぶ精神構造が日本的で、城が作り上がっていく描写が具体的かつ細やかだ。番匠(大工)の生きざま、総棟梁の又右衛門と倅の以俊の親子がぶつかり合い、そして成長していく様は読み進むにつれて、熟成しながら、認め合あい、理解しあえるようになり、読み手に心地よい爽やかな風を吹かせる。

 こんなシーンがある。以俊が快く思わぬ敵対する番匠に侮辱され、父、又右衛門が息子を慰める台詞が、これは確信を突いている。このように考えられることはとてつもなく精神的に強く成熟している証拠だろう。見習おう。

「呑みこむがいい。新奇なものを建てれば、いろんなことをいう者が出てくる。褒める者ばかりではない。誹る者もいる。讒言(ざんげん)もある。いちいちかかずらわっておっては、心がささくれ立つ。呑みこめ。呑みこんで糞にしてひねり出せ」

 これは是非、DVDを見ないとなりませぬ、ってことだ。(2010/03/02 22:33)

文庫: 430ページ
出版社: 文藝春秋 (2007/06)
ISBN-10: 4167735016
ISBN-13: 978-4167735012
発売日: 2007/06

内容(「BOOK」データベースより)
信長の夢は、天下一の棟梁父子に託された。天に聳える五重の天主を建てよ!巨大な安土城築城を命じられた岡部又右衛門と以俊は、無理難題を形にするため、前代未聞の大プロジェクトに挑む。長信の野望と大工の意地、情熱、創意工夫―すべてのみこんで完成した未會有の建造物の真相に迫る松本清張賞受賞作。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

山本 兼一
1956年、京都市生まれ。同志社大学文学部美学及び芸術学専攻卒業。99年「弾正の鷹」で小説NON短編時代小説賞を受賞。2004年「火天の城」で松本清張賞を受賞、同作は直木賞候補にもなった。


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