『不時着―特攻 「死」からの生還者たち』 2010
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木曜日

 もうすぐ大阪駅に届く新幹線の中。日高恒太朗著の本を読み終えた。文末の後書きで著者が書いている。『歴史の中で、世界的ブランドとなった特攻隊、カミカゼの評価は、いまも「狂気」の沙汰といわれたり、「国」への至誠これに勝るものはない純粋無垢の行為といわれたり、その評価は二極の間を揺れ動いているように見える。少し乱暴にいえば、その「悲壮美」が「死ねることは美徳である」という日本人好みの倫理観に合致しているために、夭折した若者たちの悲劇が手を変え品を替え伝承されているということなのだろうか』と。また、文中に『戦争にはもともと強者(権力者)が弱者(無辜の若者)を矢面に立て、そして生き残った者が偉くなり、先史の悲惨な局面を改竄していくという図式がある』とも。

 予科練は長い歴史があったが、沖縄戦が始まった頃には、すでに満足に飛ぶことの出来る航空機は数少なかった。しかし、飛べる飛行機が無くなっても、海軍は少年たちの憧れである「予科練」を金看板に志願兵を募った。名ばかりの少年航空兵たちの多くは、人間魚雷「回天」やモーターボートによる特攻の「震洋」に回された。憧れの飛行機に乗れる少年兵たちはましなほうで、多くが防空壕造り、雑用係などの”土科練”と呼ばれる組に回された。

 何故、彼らは死に自分は生き残ったのか?と自責の念にさいなまれながら、自問しながら生きてきた人たちの証言を元にノンフィクションで仕上げられた、美談化されていない真の、悪い言い方をすれば陰の部分を露呈させた「特攻物語」とも言える。(2010/02/04 9:20)

文庫: 455ページ
出版社: 文藝春秋 (2006/12)
ISBN-10: 4167717131
ISBN-13: 978-4167717131
発売日: 2006/12

内容(「BOOK」データベースより)
子供のころから「特攻隊員は死の恐怖を克服して、国のために死んでいった」のだと父に聞かされていた著者は、あるとき生還した特攻隊員の手記を読み、そんな通り一遍ではなかった彼らの心情を知る。そして「特攻神話」を突き崩そうとする、長い取材の旅が始まった。第58回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)を受賞した力作。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
日高 恒太朗
1952年、鹿児島県種子島生まれ。国立鳥羽商船高等専門学校卒。一等航海士として勤務後、横浜放送映画専門学院に入学し、中退。テレビの構成作家を経て、82年からフリーライター。『不時着』で、第58回日本推理作家協会賞受賞(評論その他の部門)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


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