『大本営が震えた日』吉村昭著 2010
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日曜日

 吉村昭氏の本に凝っている、って程でもないが面白い。昨夜から午前中にかけて読み終えた『大本営が震えた日』。氏の昭和43年の著書だ。自分の足で資料を集め、インタビューを敢行し、自分の眼で見て、自分の耳で聴く一貫した取材姿勢は脱帽する。真珠湾攻撃は既に知っていることが多かったけれども、マレー半島へ侵攻した裏側ではタイ国との駆け引きがあったことは知らなかった。これは戦史として是非読んでおくことをお勧めしたい。

 話しは、昭和一六年一二月一日皇居内東一の間で開かれた御前会議において、一二月八日対英米蘭開戦の断を天皇が下してから戦端を開くに至るまでの一週間、陸海空軍第一線武隊の極秘行動のすべてを、事実に基づいて再現している。書き出しはDC3型旅客機「上海号」が一二月一日午後五時すぎ、行方不明になり大本営は大恐慌に陥る。その機内には開戦を指令した極秘命令書が積まれており、空路から判断して適地中国に不時着遭難した可能性が近い。もしも、その命令書が敵軍に渡れば、隠密に秘匿に進められてきた一大奇襲作戦が水泡に帰してしまうからだった。

 あとがきで著者はこう書いている。『開戦の日(1941.12.8)の朝、日本国内に流された臨時ニュースは表面に突き出た巨大な機械の頭部にすぎず、その下には無数の大小さまざまな歯車が、開戦日時を目標に互いにからみ合いながらまわっていたのだ。』、『陸海軍人230万人、一般人80万人の死者を生んだ太平洋戦争の開戦の影にひそんだ事実を明らかにする上で少しでも資することができるならば幸いである』と。

文庫: 407ページ
出版社: 新潮社; 改版版 (1981/11)
ISBN-10: 410111711X
ISBN-13: 978-4101117119
発売日: 1981/11
内容(「BOOK」データベースより)
昭和16年12月1日午後5時すぎ、大本営はDC3型旅客機「上海号」が行方不明になったとの報告を受けて、大恐慌に陥った。機内には12月8日開戦を指令した極秘命令書が積まれており、空路から判断して敵地中国に不時着遭難した可能性が強い。もし、その命令書が敵軍に渡れば、国運を賭した一大奇襲作戦が水泡に帰する。太平洋戦争開戦前夜、大本営を震撼させた、緊迫のドキュメント。

 まさに一歩間違えば総崩れになったであろう長大な秘匿計画であったわけだし、陸海軍や大本営は、完全なまでに情報封鎖を徹底し、且つ、情報収集のための諜報活動を広範囲・多岐に行った。情報の攪乱もあの手この手を使った。これは奇遇にも初戦では成功するのだからね。明治維新以降、日清・日露戦争、台湾と樺太を国土に加え、朝鮮半島を併合し、第一次大戦では連合国側に身を置き、自信を付けた日本は経済的打開から満州事変をおこし、満州国を建国し、その結果日中戦争が勃発し、世界を敵にした第二次大戦へと進んでいった。しかしだよね、既に歴史の歯車は周りだし、誰も制止することが結果的にはできなかったのだね。そして、戦争の側面でもある’戦争に負けた’ということに対峙しなければならなくなった。これも事実だ。(2010/01/10 13:49)


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