最後の二式大艇 2009
11/10
火曜日

 今日、読み終えた本、本当は、『帰ってきた二式大艇』の先に読んでおくべきだったけれど、まあ、いいでしょう。この二式大型飛行艇はちょっと前まで、船の科学館にあったんだよ。さて、まず、海軍が試作機を発注する場合、その計画から完成して領収するまでに、何段階もの審査を行ったのだけれど、大枠はこのようなことを行った。

一、計画一般審査 基本計画の適否を判断。
二、木型審査 実物模型で、主として艤装兵装の適否を審査。
三、図面審査 主要構造部を図面によって判定。
四、構造審査 試作機第一号機工事進捗30%および90%程度の二期に分けて実施。
五、強度審査 強度試験用期待いわゆるゼロ号機で破壊試験を実施、強度の適否を判断。
六、完成審査 第一号機完成時期、前各号審査の成果を総合審査した上で剛性試験および振動試験を実施、飛行安全度の適否を判断。
七、飛行審査 軍に領収の上、慣熟飛行、性能試験、実用飛行試験、実用整備試験、兵装実験を実施、普通、試作機約八機がこれに当てられる。

 文中で興味深い部分をピックアップしてみよう。こういった記述のくだりは面白い。「数字との格闘」「陸上機をしのぐ飛行艇とするためには、できるだけ機体の表面積を減らす-コンパクトな設計としなければならない。それと機体重量、これも軽ければ軽いほどよい。寸法と重量の関係は三乗で効く。つまり寸法が2倍になれば重量は8倍になる計算だ。
 そこで馬力重量(機体総重量/エンジン総出力)や翼面加重(機体総重量/主翼面積)その他いろいろな計算上の基本データを決めるため、計算をやったり考えたり、必要に応じて実験をやったりしながら、アウトラインを固めていった。
 結論的にいえば、主翼面積を九七式大艇の百七十平方メートルより十平方メートル減らしたのだが、これにはいろいろ紆余曲折があった。というのは、あまり主翼を小さくする-すなわちスパン(主翼幅)を短くしすぎると、航続距離を伸ばそうとする上では不利になるからだ。
 ジェット機ではなく、プロペラ機の場合の航続距離は、場抗比(L/D)とエンジンの燃料消費率とプロペラの効率の三つで決まる。巡航速度と飛行高度と飛行機の重量が決まると、そのときの主翼の場力係数(C)が決まり、これに対応するL/Dも自然に決まる。この数値が大きいほど航続距離がのびる。L/Dは、飛行機全体の形状抵抗と摩擦抵抗と誘導抵抗の和、すなわち全機の抵抗(CD)とそのときのCとの比だから、摩擦抵抗や誘導抵抗をできるだけ小さくすることが望ましい。その上で、L/Dの値が巡航速度で使うCのところで最大になるようにするのが理想だ。
 これが翼面加重を決めるひとつの要素で、この巡航速度で飛ぶときのエンジンの燃料消費率とプロペラ効率も同時に最良になるように、飛行機全体の設計を調和させることが、最大の航続距離を実現するために必要だ。しかも主翼面積によって尾翼の大きさも決まるので、尾翼の重量にも影響する。こうしたことがまわりまわって総重量に関係してくる。一方、翼面荷重をあまり大きくすると、離水が難しくなるので、この辺のかねあいが設計のもっとも重要なポイントとなる。」 どう、面白いでしょう。(2009/11/10 21:53)


文庫: 346ページ
出版社: 光人社 (2009/03)
ISBN-10: 4769820461
ISBN-13: 978-4769820468
発売日: 2009/03

内容(「BOOK」データベースより) 日本海軍が世界にほこる最高峰の飛行艇「二式大艇」―大戦末期、戦勢挽回の切り札として輿望を担った名戦闘機「紫電改」を生むにいたる“川西航空機”の若き技術者たちが、頭脳と熱意と努力を傾注して挑戦する不屈の開発物語。戦火の空に展開された搭乗員たちの死闘とともに活写する感動のノンフィクション。

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