夏は、何故か、戦記物(WWⅡ関連)を読みたくなる。 今回、読んだ城山三郎著の『一歩の距離』は、特攻を志願した予科練を主人公に据えた小説である。 著書自身の海軍体験、そして多くの戦争体験者の話を聞き、戦地をたくさん巡ってきただけに、人間模様、心情が心憎いほど書き上げられていて、死に宙づりにされた中学を途中退学して海軍に志願してきた若者のひたむきさ、その動機や思惑や一途さが息苦しくなるほどに迸っており、中編小説のおもしろさを際だたせているし、たっぷり味合わせてもくれる。 2つ「一歩の距離」、「マンゴーの林の中で」話が綴られているが、文学的にも、とても気品があり、僕としては、「是非、皆さんにも読んで頂いきたい」と言わしめる内容の濃い本であった。
しかし、特攻を志願した、お国のために身を挺して、軍神になろうとする純粋な彼らを虫けらの消耗品(スペア)として扱った国のなりふり構わずさが、とても肚に据えかねるほど、怒りを覚える。 「マンゴーの林の中で」での谷山大尉はそんな中でも、人間味溢れる紳士であった。 数多くの戦記物を読んできたが、大本営の戦略と呼ぶには恥ずかしすぎる中、その下令を指揮する士官にも、すばらしい人は多くいたのも事実である。
このあとは、同じく特攻兵器として人間魚雷の『特攻回天戦』を読もう。 今日は暑さを逃れ、読書中毒となるだろう。 (2009/08/15 10:37)
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文庫: 281ページ
出版社: 角川書店
発売日: 2001/07 |