『一歩の距離ー予科練』は読んでほしい本 2009
8/15
土曜日

 夏は、何故か、戦記物(WWⅡ関連)を読みたくなる。 今回、読んだ城山三郎著の『一歩の距離』は、特攻を志願した予科練を主人公に据えた小説である。 著書自身の海軍体験、そして多くの戦争体験者の話を聞き、戦地をたくさん巡ってきただけに、人間模様、心情が心憎いほど書き上げられていて、死に宙づりにされた中学を途中退学して海軍に志願してきた若者のひたむきさ、その動機や思惑や一途さが息苦しくなるほどに迸っており、中編小説のおもしろさを際だたせているし、たっぷり味合わせてもくれる。 2つ「一歩の距離」、「マンゴーの林の中で」話が綴られているが、文学的にも、とても気品があり、僕としては、「是非、皆さんにも読んで頂いきたい」と言わしめる内容の濃い本であった。

 しかし、特攻を志願した、お国のために身を挺して、軍神になろうとする純粋な彼らを虫けらの消耗品(スペア)として扱った国のなりふり構わずさが、とても肚に据えかねるほど、怒りを覚える。 「マンゴーの林の中で」での谷山大尉はそんな中でも、人間味溢れる紳士であった。 数多くの戦記物を読んできたが、大本営の戦略と呼ぶには恥ずかしすぎる中、その下令を指揮する士官にも、すばらしい人は多くいたのも事実である。

 このあとは、同じく特攻兵器として人間魚雷の『特攻回天戦』を読もう。 今日は暑さを逃れ、読書中毒となるだろう。 (2009/08/15 10:37)



文庫: 281ページ
出版社: 角川書店
発売日: 2001/07
出版社/著者からの内容紹介
「特攻志願する者は一歩前へ」。戦争の真実に迫る名作。航空隊指令から呼び出しがかかった。「特攻志願する者は一歩前へ」。生死の選択を賭けた練習生の心を通して、戦争の真実を見た、表題作、他一編。

内容(「BOOK」データベースより)
司令は静かな口調で命令した。「戦局を一変させるべく、帝国海軍では、この度、必殺必中の兵器を動員することになった。全員、目を閉じよ。兵器への搭乗を志願する者は一歩前へ!」塩月は躊躇した。前に出る練習生の靴音が聞こえる。出なければ、出なければ。死ぬために来たのに、何をためらっているのか。両親や兄弟のことを思った。脇の下を冷たい汗が流れる…。生と死を隔てる“一歩の距離”を前にして立ち竦む予科練の心理の葛藤を通して、戦時下の青春群像を描いた表題作、他一編。
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