『白鯨』第45章.宣誓供述書 事例三 2009
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日曜日

 朝から至福の読書三昧、『白鯨』中巻に突入、メルヴィルの語り部、作家としての切り口はいろんな要素を持っていて、あるときは論文調、あるときは文学評論家、そしてはたまた宗教評論家、あるときは捕鯨の平水夫なのだよね。こりゃ名作に違いない。

 その第45章、「宣誓供述書」事例三が実におかしくてお腹を抱えて笑ってしまった。マッコウクジラの獰猛性、海獣として偏執狂ぶり、仮借無き復讐心、なめてかかってはしっぺ返しを食うのだよ、心してカカレ、みたいなノリ。供述書なので、語り口調で、ユーモアたっぷりでしょ。

 『事例三。一八〇三年、かれこれ一八年か二〇年前のこと(注釈:1851年を起点として)、当時アメリカ海軍の最新鋭のスループ型軍艦(注釈:比較的小型の軍艦で、甲板上にのみ大砲を装備していた.)を指揮していたJ提督(注釈:トマス・アプ・ケイツビー・ジョーンズ(1790-1858)提督。彼はメルヴィルがホノルルから水平として乗り組んだフリーゲート艦の艦長でもあった.)が、サンドウィッチ諸島のオアフ港に停泊中のナンターケット船籍の船のうえで、捕鯨船の船長の一行と食事をともにしたことがありました。話題がたまたま鯨におよび、その道の紳士がたが鯨の驚くべき力について口を揃えて語るものですから、提督はその驚異の力なるものについて疑念を表明したくなってしまったのであります。

 そこで提督は断固として否定したのであります-わが堅牢なるスループ型軍艦に体当たりをくらわせ、ほんの一滴にせよ、水漏れをおこさせるような鯨などいるはずがない、と。それは、それでよろしいのですが、これには先があるのであります。数週間ののちのこと、提督はその不沈戦艦をチリのヴァルパライソに向けて出港させました。ところが、その途次、恰幅よろしいマッコウ鯨が提督を呼び止めて、ちょっぴり内密の取引をしたいともちかけてきたわけであります。ところが、その取引の中には提督の軍艦に手痛い一撃を加えるという一項が含まれていたおかげで、提督は軍艦のポンプを総動員して排出しながら最寄りの港に逃げ込み、船体をかたむけて船底を修理しなければならない羽目になったのです。わたくしはべつに迷信的な人間ではありませんが、提督とその鯨との出会いには神意がはたらいていたのだと思います。タルゾスの人サウロ(注釈:サウロは聖パウロのユダヤ名。もともとユダヤ教の伝統の強い環境に育ち、パリサイ派の熱心な一員となってキリスト教徒を迫害したが、その過程で突然、天からの光がサウロのまわりを照らし、天からの声を聞きまた三日にわたり視力を失うというような体験によって、「回心」し、熱心なキリスト今日の伝道者パウロとなった。「使従言行録」九参照)が不信心から回心したのは似たような恐怖心からではなかったでしょうか? 言わせていただきますが、マッコウ鯨を軽んじてはならないのであります

 さて、続きを読まなきゃ、只今、13:25。

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