みなと区立エコプラザの開催するみなと森と水会議「森と水学①」と題して、東京大学 農学部 愛知演習林の田中延亮氏を迎えたプログラムを拝聴した。森林の保水に関して、『森林水文学(すいもんがく)-(hydrology)-』という分野に足を踏み入れてみた。水文学は一言でいうならば、”水循環の過程を解明する”ことになる。雨・雪などの降水から流出までの、主に流域を扱う分野を流域水文学、地球規模での降水、 蒸発散、水蒸気輸送なども含めた領域を扱う分野を地球水文学があるが、”森林水文学”という分野は目新しい?もので、第一人者である方から貴重な話を聞くことが出来き、なるほど、こういった考え方もあるものだと勉強になった。
■ 目標
森林の水源として機能(緑のダムとしての機能)を正しく理解する。
■ 基本的なこと
・ 森林の保水力には2種類ある「一時保水力」と「消失保水力」
・ 多くの人は「一時保水力」を森林の保水力としてイメージしている。
■ 緑のダムに関連して
・ 森林には想像するような水資源を生み出す力はない。
・ 森林には想像以上に洪水軽減力がある(報知人工林の手入れが必要)
■ 森林の保水力とは?
「一時保水力」=水を一時的に貯水し、川にゆっくり流す「川の水量は変わらないが、流れる速度が変わる」機能
「消失保水力」=「水を一時的に貯留し、川に流さず蒸発させて大気に返す」、「川の水量そのものを減量させる」機能
■ 水収支とは?
・ 集水域
・ 降った雨のすべてが川に流れ込むわけではない。
・ 一部は蒸発し、残りが川に流れる。
・ 蒸発は400ミリ(北)~1,000ミリ(南)と大きい。
■ 森林の一時保水力
・ 「一時保水力」とは「ゆっくり流す」機能のこと。
・ ゆっくり流す機能で重要なのは以下の2点
(1) 雨水が地表面に浸透するかどうか -浸透しない水は地表流となって早く流れるので、浸透能が低いと保水力が弱まる。
(2) 浸透した水が土の中をゆっくり流れるかどうか。
■ 浸透能とは
・ 浸透能が降雨強度よりも大きければ、降雨は全量浸透する。
・ 浸透能の値として日本記録(1982年 長崎豪雨 187mm/時間)よりも大きいので、どんな大雨が降っても森林では全量浸透すると説明されている。
・ しかし、この値は円筒管の水位低下速度で測定しており現実の値より高い。
・ 現実に近い方法で測定したところ、30ミリ/時間の程度となった。
■ 森林土壌の重要性
・ 発達していればいるほど「一時保水力」が高く、水をゆっくり流す機能に優れている。
・ 逆に言えば、森林土壌が失われているような状況では、地表面流が発生していなくても「一時保水力」は低下し、ゆっくり流す機能は低下している。
■ 森林の消失保水力の科学的証拠
・ 隣り合う2つの川を試験地として設定し、川の流量をしばらく観測した後、片方の森林を伐採する実験を行うことを『対照流域法』という。
※『対照流域法』とは:森林の機能を解明する目的で、流域の植生に処理を加えて影響を観測する際に、1)植生を変化させない対照流域を設定する、2)流域の植生に変更を加える前に、処理流域と対照流域のもともとの差を明らかにする比較期間を設ける、という厳密な比較による研究手法。(滋賀県琵琶湖研究所記念誌) |
■ 森林タイプと水消費量
・ 広葉樹林の水消費量は若い針葉樹林と同程度。
・ 広葉樹林の水消費量は、壮齢の針葉樹林よりも大きい。
■ 森林の洪水減衰力
これまで述べた森林の「一時保水力」、「消失保水力」の両方が洪水軽減に対して、プラス(洪水を軽減させる方向)に力を発揮する。
■ 消失保水力のメカニズム
・ 遮断=雨滴が気の枝葉に捕捉され、地表に達することなくそのまま蒸発する。
・ 蒸散=一度、地面にしみこんだ水が根から吸い上げられ、葉の裏面にある光合成のためのCO2を取り込む穴(気孔)から蒸発する。
① 遮断による洪水軽減
・ 降水雨量の10~30%(通常の降雨)
・ 最近の研究では、洪水を起こすような時でも5~10%の軽減が確認された。
-1996.7台風:降水量422.5mm、遮断量29.8mm(7%)
-1996.9台風:降水量402.4mm、遮断量24.0mm(6%)
② 蒸散による洪水軽減
・ 「蒸散」は洪水をもたらす大雨の最中にはほとんど起きない(植物は葉が湿ると気孔を閉じる)ので、洪水を直接緩和するのではない。
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森林有無による蒸散容量のモデル図 |
■森林の保水力と洪水軽減、水資源涵養
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洪水軽減 |
水資源涵養 |
一時保水力 |
+ |
(+) |
消失保水力 |
+ |
- |
■ 地表流を防ぐのは、落ち葉と草
森の地表流を起こりにくくさせるのは、土の上の落ち葉だけじゃない。草がたくさん生えいればいるほどいい。落ち葉に地表流を防ぐ力のない檜の林でも草がたくさん生えていたら、地表流は起きない。
■ 放置林では何が起きているのか?
・ 「雨滴」による土壌浸食が起きている。
・ これまでは雨滴による土壌浸食は畑で起きるものとされていた。
・ 林内で土壌がむきだしになっていると雨滴のエネルギーで土壌表面の粒子が破壊され、“つぶ”が細かくなる。
・ 細かくなった“つぶ”は土壌表面の水がしみこむ隙間を埋めてしまい、水がしみこみにくくなる。(浸透能の低下)
■ 放置人工林が問題
手入れ不足で真っ暗、雨滴による浸食で土壌が流され小石や根の露出、土人形(どにんぎょう)が見られるようになる。
よい山とは |
悪い山とは |
・木の密度が低い。
・中が明るく、下草が生える
・土壌表面を保護し、水が浸透する。 |
・木の密度が高い
・中が暗く、下草が生えない。
・土壌表面が流出している。 |
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