宇宙飛行士が船外活動で「運が悪い場合」<前半> 2008
12/23
火曜日

  どんどん続けよう、『宇宙の最後』として、宇宙飛行士の「運が悪い」ケースでは、どのようなことが想定されるのか? 2回に渡って『絶対帰還。』から、興味をソソル話題をしましょ。でも、やっぱ、僕にもチャンスがあれば、宇宙に飛び立ちたい、と思うよね。

  もしも運が悪ければ、当る確立が四九六分の一という貧乏くじを引いて、超高速で飛行する物体と衝突する。実際軌道上には数え切れないほどの物体が飛んでいる。超小隕石、氷塊、ロシアの宇宙ステーション(ミール)から分離して燃え尽きずに残った破片、国際宇宙ステーションから出たものもある。場合によっては、四五分前に自分のポケットから落ちた工具か、ボルとか、お守りかもしれない。

 そして、かつてジョン・グレンが実証した、軌道運動の宿命を身をもって知る。グレンはフレンドシップ7号で地球を周回するたびに、自分の出した噴射ガスのなかを飛び、蛍の群れの中を飛んでいるかのように思ったそうだ。軌道上を回り始めた物体は、ずっと回り続けることが、このとき始めて確認された。もしも自分がその物体の軌道上にいたら、最悪である。

 頭や胸など体の重要な部位に当れば即死する。物体の速度は地上で発射される銃弾の10倍にもなる。大きな物体が頭に当れば、首から上はきれいに吹き飛ばされるだろう。そのときヒューストンの技術陣は慌てふためき、どうして今の今まで完全に正常だった生体データが、くしゃみ一回ほどのあいだにゼロになってしまったのか、首をかしげるに違いない。
 

しかし、もしも小さな物体、例えば、どこかのおんぼろ衛星からはがれ落ちた「MADE IN JAPAN」と記されたラベルや、ラズベリーぐらいの大きさの謎の石だった場合、頭や胸以外の部位-たとえば腕-に当ったら、ぞっとするような恐ろしい不幸に見舞われる。脳がそのマジックを発揮する時間はほとんどないからだ。さまざまな感覚がどっと押し寄せてくるのに備えるため、人生を走馬燈のように映し出している暇はない。別れを惜しむ七時間ではなく、恐怖に満ちた九秒間を経なければ、安らぎはやってこない。

 最初に、物体が当ったヶ所の皮膚が裂けたのを感じ、つぎに骨が粉々に砕けたのを感じる。体にぽっかりと開いた穴に白血球が殺到する。迫り来る恐怖を感じていなければ、傷の痛みで気絶していたかもしれない。しかし最悪なことに、自分は直前まで、かつてないほど元気溌剌としていたのだ。何が起きているのか、これからどうなるのか、そして、宇宙服に開いた穴が、体に開いた穴よりもずっと重大だということも、充分すぎるほどよくわかっている。アメリカ外科医歯科医などの研究報告書で読んだ急激な減圧の影響とその対策に関する宇宙医学の専門家達の冷淡な言葉をすぐに思い出す。

 「これらの損傷は致命的であり、医療的処置の必要性は排除される」 (・・・続く

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